あなたは「抹茶の粉」が何からできているかご存じでしょうか?
この「茶の湯」という落語は、抹茶が何からできているか知らないご隠居が、とんでもない「オリジナル茶の湯」を周囲の人々に振る舞うドタバタ劇です。
ちなみに、「抹茶の粉」は原材料である「碾茶」の葉を摘んだ後、蒸して乾燥させ炒って熟成させ、石臼で挽いて粉末にします。
そしてその粉末とお湯を混ぜ合わせて飲むのが抹茶です。
碾茶の茶畑
石臼で挽く前の碾茶
2005年に放送された『タイガー&ドラゴン』という長瀬智也さんと岡田準一さんが主演を務める、ヤクザが落語家に弟子入りするというトリッキーなドラマのなかにも出てくる有名な落語です。
さっそくあらすじを紹介します。
あらすじ
息子に財産を譲って、根岸の隠居所でのんびり暮らしているご隠居と小僧の定吉。
ご隠居はお金を貯めて、財産を増やすことが唯一の楽しみだったので、隠居生活は毎日することがなくて、退屈でしかたがない。
隠居所には茶室と茶道具がついているが、風流気のないご隠居は、一度も使ったことがない。
もったいなから茶の湯でもやろうかと思ったが、ご隠居も定吉も作法なんて知らず、何を揃えてたらいいのだか、二人ともちっともわからない。
知ったかぶりのご隠居が青い(緑色)粉ならとにかくいいだろうと、定吉に買ってこさせたのは青黄粉(現在のうぐいすきな粉)。
茶筅でかき回してみたものの、黄粉だからいつまでたっても泡立たない。
これではしかたがないと、何か泡立つものをというので、定吉が”椋の皮”を買ってきた。
(椋の皮:当時の洗剤の代用品。現在でいうところのアタックやアリエールみたいなもの…(-_-;))
茶釜に椋の皮を放り込むと、これはぶくぶくと見事にあふれるほどの泡が立った。
とても飲める代物ではなかったが、二人で「風流だな~」と得体のしれない「茶」を飲んで「茶の湯」を楽しんだ。
そのうち二人ともお腹の調子がおかしくなり、ご隠居は夜通し16回もトイレへ行く羽目になる。
定吉はというとたったの1回だけ。
ご隠居は若い者は違うと感心するが、よく聞くと「入ったっきり出られなかった」と重症だった。
そうしているうちに二人ともだんだん「茶の湯」がおもしろくなってきて、お客を呼びたくなった。
哀れな犠牲者には長屋の住人である豆腐屋、仕事師の頭、手習いの師匠が選ばれた。
物知りで通っていた豆腐屋は茶の湯の作法を知らなかったので、恥をかくくらいならと店をたたんで引っ越すことにした。
仕事師の頭のところに挨拶に行くと、こちらも引っ越しの真っ最中。
やはり恥をかくぐらいならと引っ越しをすると言う。
元は武士の手習いの師匠なら茶の湯くらいわかるだろうと行くと、こちらも机を運び出して引っ越しの準備中。
三人は、もしご隠居が作法について色々と言ってきたなら、ご隠居を張り倒して引き返せばいいと覚悟を決めて、隠居所に乗り込むことにした。
全く作法を知らない者同士の「茶の湯」。
がぶりと飲んではみたものの青黄粉に椋の皮の「お茶」。
一同、のどを通らず、脂汗がダラリ。
慌ててお茶受けの羊羹を毒消しにほおばる。
これに味を占めたご隠居は手当たり次第に客を引き込んで「茶の湯」でもてなした。
茶はまずいが羊羹は美味いと、羊羹目当てでお客が来るようになる。
来る人来る人が羊羹ばかり食らうので、もともとケチで通ったご隠居のこと、菓子代ばかり高くついたのではたまらないと、茶菓子を自作することにした。
とはいっても作り方など知るわけがなく、サツマイモを蒸かしてすり鉢ですり、砂糖は高いからと蜜を混ぜて、型に灯し油をつけて型抜きした珍菓子を「利休饅頭」と名づけ、羊羹の代わりにふるまった。
お客は得体のしれない「茶」を飲まされた挙句、ヘドロ菓子を食べさせられるとなっては命がいくつあっても足りないと、とうとうだれも「茶の湯」に寄りつかなくなった。
ある日、そんなこととはつゆ知らず、知人の旦那が訪ねてきたので、しばらく「茶の湯」をやれなかった隠居は大はりきり。
いつもよりたくさんの青黄粉と椋の皮が入った「お茶」を飲まされた旦那は、思わず「うえー」と吐きそうになるが、ひざ元を見ると、見た目はおいしそうな利休饅頭。
旦那は慌てて、利休饅頭を3つも手に取ると、1つをがぶりとほおばった。
さあ大変なものを食わしやがった思っても後の祭り、吐き出すわけにもいかず、残りの饅頭はこっそり袂へ。
我慢ができず、慌てて便所に逃げ込み、捨てる場所はないかと見渡すと、窓の外には建仁寺垣の向こうに一面の畑。
田舎道ならかまわないだろうと、垣根越しにえいっと放ると運悪く畑仕事をしていた百姓の顔にベチャッ。
「あぁ、また茶の湯か」
実は石鹸と抹茶の泡立つ成分は同じもの⁉
お話のなかで、泡立たない「お茶」を見たご隠居は、泡立つものから石鹸の泡を思いつきますが、実は抹茶の泡立つ成分と石鹸の泡立つ成分は同じ「サポニン」という成分なのです。
現在では「ウォッシュナッツ」という商品がサポニンを使用した天然の洗剤として販売されています。
なので、ご隠居の発想もあながち見当違いというわけでもないんです。
サポニンは、茶葉に0.23%ほどとごく少量含まれている配糖体の成分の一種です。
サポニンには独特の苦みと渋み、えぐみがありますが、含まれているのがごく少量のため、そこまで苦くなるということはありません。
他にもあずきなどの豆類にも含まれており、豆をゆでると大量の泡が噴き出てきますが、これはゆで汁にサポニンが溶け出したことによります。
この泡は通常「アク」として除去しますが、ご隠居はこの「アク」をきな粉を溶かしたお湯に抹茶の泡に似せてトッピングしたのですね。
そりゃあ飲めたものではありません。
苦味、渋み、えぐみが強すぎるんですよね。
「茶の湯」を再現⁉
実際にお話に出てきた「茶の湯」を再現されてる方がいらっしゃいました。
はたして、「茶の湯」を再現することはできたのか、再現した「茶の湯」は飲めるのか…?
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