茶道のお稽古やお茶席で「松風」という言葉が入った掛け軸を見たことがある方は多いのではないでしょうか?
実はこの「松風」という言葉は茶道ととても深い関わりがある言葉なのです。
この記事では「松風」という言葉自体の読み方や意味、「松風」を使用した禅語について解説しています。
「松風」なんと読む?
まずは「松風」の読み方ですが、読み方には二通りあります。
そして読み方によって言葉の意味が違ってきます。
「しょうふう」
意味は松に吹く風。まつかぜ。松籟(しょうらい)。
「精選版 日本国語大辞典」より
松籟は松の梢(こずえ)に吹く風。またその音のこと。
つまり自然の風景のひとコマを表現しています。

「まつかぜ」
「まつかぜ」という言葉の意味は全部で4つ。
① 松の梢を吹く風。松の梢に当たって音をたてさせるように吹く風。
引用:「精選版 日本国語大辞典」より
「しょうふう」と同じ意味で、風景のひとコマを表現した言葉となります。
② 薫物(たきもの)の名。種々の調合例がある。
引用:「精選版 日本国語大辞典」より
薫物(たきもの)とは様々な香を粉末にして練りあわせて作った練香のこと。
③干菓子の一つ。小麦粉を溶かして、厚く平たく焼き、表に砂糖の液をぬり、けし粒をつけたもの。
引用:「精選版 日本国語大辞典」より
「松風」は「日本一薄い和菓子」として有名な和菓子の名前ともなっています。
和菓子の名前の由来は
「松風」という名の由来には、芥子の実を点々と散らした様な表面が松林の大地の色にも似て、裏は飾りがない。この裏に装飾がなく”裏寂しい”ことから、昔の人の言葉で『浦は寂しい松風の音』(松葉の裏を吹き抜ける「ヒュー」という音の比喩)とかけて命名されたといわれています。
松風本家 正観寺丸宝ホームページ

④ 茶の湯で、茶釜の湯のにえたぎる音をいう。
引用:「精選版 日本国語大辞典」より
釜のお湯が沸く様子を表す言葉には2種類ありますが、どちらもお湯が沸いて釜がシュンシュンと音をたてる様子を松に吹く風の音に例えて「松風」と名付けているのです。
唐や宋の時代に中国から来た湯相(ゆそう/ゆあいと読む。お湯の沸き加減のこと)表現です。
1.「魚眼(ぎょがん)」:魚の目のような泡が生じている状態
2.「蚯音(きゅういん)」:ミミズの鳴く音のようにあるかないか分からないような音の出ている状態
3.「岸波(がんぱ)」:岸に波が押し寄せるような音のする状態
4.「遠浪(えんろう)」:遠くにある波が出すような音
5.「松風(まつかぜ)」:まさに松林の中を吹き抜けるような音のする状態
6.「無音(むおん)」:水を差すことや火の勢いが落ちることで音がなくなる状態
引用:盛美庵 茶の湯日記 ブログ
茶道を大成させた千利休が、湯相を5つに分けて、「松風」という湧き加減が抹茶を点てるときに最も良い湯加減とされました。
1.「蚯音(きゅうおん)」:ミミズの鳴く音
2.「蟹眼(かいがん)」:カニの目のような小さな泡がたつ状態
3.「連珠(れんじゅ)」:湧き水のように泡が連なって湧き上がる状態
4.「魚目(ぎょもく)」:魚の眼のような大さな泡がたつ状態
5.「松風(しょうふう)」:松籟(しょうらい)とも言い、釜がシュンシュンと鳴る音
沸きすぎると水が「老け」茶に適さない。「水老」もしくは「死水」と呼ぶ。
引用:茶の湯の楽しみ
いずれも「松風」はお湯が沸く音を表す表現となっています。
「松風」のお湯って何度くらい?

抹茶を点てるのに適切なお湯の温度は80℃ほどといわれていますが、実際に「松風」の温度は何度くらいなのでしょうか?
〈88℃の状態〉底から小さな泡の粒が上がり、水中に広がる。これとともに「松風」の音がして、だんだん大きくなった。
自然科学観察コンクール
実際に実験された方によると、「松風」の音は88℃で鳴り始めたとのことです。
『小さな泡の粒が上がり』というのは「連珠」の状態でしょうか。
ほぼ同時に「松風」の音がしたとのことで、沸騰直前の温度の時に「松風」の音は鳴るようです。
抹茶を点てるのに適した湯温ともほぼ一致します。
温度計などなかった昔は、沸騰直前のお湯の様子や音で温度を見計らっていたのですね!
「松風」を使った禅語
「松風」という言葉が茶道に関係する意味としては「松に吹く風」と「お湯の沸き加減」という2つの意味があることがわかりました。
では、お茶席などの掛け軸で見かける「松風」という言葉を使った『禅語』はどういうものがあり、どんな意味になるのでしょうか。
有名なものを2つご紹介します。
「松風颯々声」(しょうふうさつさつのこえ)
直訳すると【松の葉に風がさっと吹く様子やその音】。
風が松の間をさっと通り抜け、その音に心静かに耳を澄ますと、身も心も松風につつまれて、時を忘れて清々しく穏やかな境地に。
ラジオ関西トピックス 神戸大倉山・楠寺瑠璃光苑の住職「ラピス和尚」さん
なんでもなかった松風の音が、とっても素敵な音だと気づいたら。なんでもなかった日常に、こんなに素敵なものが身近にあったと気づいたら。そして、身体中を爽やかに駆け巡ったら……。
「閑坐聴松風」(かんざして しょうふうをきく)
直訳すると【静かに座って、松にそよぐ風の音を聞く】。
「心静かに座すということができないからこそのこの世であって、一切の煩悩や考えを捨てて、ただただ座り松風の音を聴きましょう。時間に追われ気が急いている時につい見過ごしてしまうことも、心静かに座して耳を傾ければ自然と見えてくるでしょう」
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いずれも、「何気ない松風の音に心静かに耳を傾けてみることで、慌ただしく過ごす日々の中で気がつかなかったことに自然と気が向くようになる」そんな意味の禅語です。
たまにはスマホから目を離して、風の音に耳を澄まてみませんか。
うっかり見落としていた大切なことに気がつくかもしれません。
まとめ
この記事では「松風」の読み方や意味、「松風」を使った禅語をご紹介しました。
- 「松風」の読み方は2つ
1.しょうふう
2.まつかぜ - 意味
1.松に吹く風のこと
2.薫物の名前
3.日本一薄い和菓子の名前
4.茶釜の湯のにえたぎる音 - 「松風」の湯温
茶道を大成させた千利休はこの「松風」の湯相が抹茶を点てるのに1番適した温度だとしました。そして、実際に実験されたからのレポートでは「松風」の音がし始めたのは88℃くらい。
茶道では80℃ほどが抹茶を点てるのに適した温度とされているので、実験結果とほとんど差異はなかった。 - 「松風」を使った禅語
〇松風颯々声:しょうふうさつさつのこえ
〇閑坐聴松風:かんざして、しょうふうをきく
この記事が参考になれば幸いです。
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