茶道をはじめて最初に驚くのは、半年ごとに釜の位置が変わることではないでしょうか。
釜の位置が変わると座る場所や使う道具も変わってきます。
せっかく覚えた点前も座る場所が変わると、ちんぷんかんぷん…というのは茶道経験者あるあるですね。
この記事では炉と風炉の違いはもちろん、炉と風炉で使う道具の違いなども解説しています。
炉と風炉について基本をおさらい
「炉と風炉」について基本的な情報をおさらいしておきましょう。
茶道でお湯を沸かすための道具である釜。
この釜は季節によって置く場所が変わります。
寒い時期の「炉」は畳を切って、床下の一段下がったところに置きます。
暖かい時期の「風炉」は畳の上に置きます。
なぜ炉と風炉を使い分けるのか
ひとつは「季節を楽しむため」
茶道では「季節を感じて楽しむこと」を大切にしています。
「炉」と「風炉」を使い分けることで、茶道具や点前などにも変化を持たせ、季節を感じるということなのです。
もうひとつは「お客様への配慮」
「お客様に配慮すること」と「道具を使い分けること」がどうして関係があるのか不思議でしょうか?
それは「季節」と「釜の置く場所」に関係があります。
寒い時期の「炉」は、お客様のすぐ前に炉が来ますので、お客様は火が近く暖かいのです。
逆に暖かい時期の「風炉」は、お客様が暑くないよう、お客様から離れたところに風炉を置きます。
「炉」とは
炉とは、茶室の一部の畳を切り取り、備え付けられる小さな囲炉裏のことです。
わび茶を提唱した珠光が初めて四畳半に炉を切り、その後、茶人の武野紹鴎、千利休が炉の点前を定め、炉の大きさも一尺四寸(約42.5㎝)に定めたと言われています。
炉の構造
畳を切って作った床下の穴に、炉壇という四角い箱を入れ、そこに炉縁という木の枠をはめます。
炉縁は火気が畳に伝わるのを防ぐ役割と装飾としての二つの役割があります。
炉壇の中に灰を入れ、五徳を置き、その上に炉釜を乗せます。
お湯を沸かして使う時は、五徳の間の決められた場所に、決められた炭を置いて使います。
「風炉」とは
土風炉、唐銅風炉、鉄風炉などに風呂釜をセットして使います。
風炉の起源は鎌倉時代に「台子」などとともに中国から持ち帰ったと伝えられています。
炉を使い始める前は、四季に関係なくすべて風炉を使っていました。
風炉の構造
敷板という板の上に風炉を乗せ、その中に五徳を置き灰を入れます。
灰は灰匙できれいに整え、前瓦を入れます。
前瓦は火や熱気が点前に飛ぶのを避ける他、空気の調節の役割もあります。
茶人の正月「炉開き」
茶道の世界で11月は「茶人の正月」といわれ、1年のうちでもっとも特別で節目の月です。
それは11月には「炉開き」と「口切」の2つの大きな行事があるためです。
1.炉開き(ろびらき)
「炉開き」とは『亥の月の最初の亥の日』に5~10月まで使ってきた風炉をしまい、席中の炉に火を入れる行事です。
何事もなく1年を迎えることができたことへの感謝と半年の炉の使用の無事を祈念します。
亥月の最初の亥の日
旧暦の10月10日のことで、2023年は11月1日(水)が『亥の月の最初の亥の日』となります。
「亥」とは十二支のイノシシのことで、「年」にそれぞれ十二支のひとつが割り振られているように、「月」や「日」にも十二支が割り振られています。
「亥の月」とは、旧暦の10月のことで、1ヶ月ズレがある新暦では11月となります。
「亥の日」とは、12日ごとに十二支を一巡するため、月のように毎年この日という決まりはありません。
11月(亥の月)の最初の亥の日のことを『亥の子』と呼び、この日に炉開きを行います。
参考:新しい季節
『亥の子』に炉開きを行う理由
ここでいう「炉開き」は茶道における炉だけでなく、囲炉裏や暖炉に火をくべて使い始めることをいいます。
亥の月亥の日に炉開きをする理由は”陰陽五行説”に由来するようで、
・亥の月は陰の気の極まる「極陰の月」
・亥の日は五行では「水の日」
に当たるため、亥の月亥の日に火(暖房器具)を使い始めればその冬は火事にならないと信じられてきました。
そこで茶道の世界でも、火事にならないようにこの時期に炉開きが行われるようになったということです。
炉開きのお菓子~亥の子餅、ぜんざい~
炉開きの茶事では「亥の子餅」や「ぜんざい」がお菓子として出されることが多くあります。
亥の月亥の日の「亥」と同じ漢字が使われた亥の子餅ですが、炉開きとはまた違った理由があります。
古代中国に「亥の子祝い」という風習があり、イノシシに習い子孫繁栄・無病息災を願って亥の月亥の日亥の刻(21~23時の2時間くらい)に、大豆・小豆・大角豆・胡麻・栗・柿・糖の7種の粉と新米を混ぜた「亥の子餅」を食べていたようです。
その風習が日本にも伝わり、同時期のため、炉開きでも亥の子餅が食べられるようになったようです。
参考:鈴懸
ぜんざいはおめでたい行事だからという理由だけでなく、亥の月亥の日が陰であるのに対して、陽のものである小豆をいただくことで、陰陽の和合を図っているという理由があるようです。
参考:沼尻
2.口切(くちきり)
口切とは、その年の八十八夜(立春から数えて88日目の日)に摘まれた茶葉(=新茶)を詰めた茶壷の口を切る行事です。
この日から新茶を使い始めるということで、茶道の世界において新年度のスタートの意味合いがあります。
季節での仕様の違い
炉と風炉、それぞれのなかでも使う釜や置き場所が時期によって少し異なります。
炉
2月:広口釜(ひろくちがま)
1年の中でも最も寒い時期。
口が広い釜を用いることで、湯気が室内を暖めてくれます。
3月:釣り釜(つりがま)
五徳をはずして、風炉に移る準備をする時期。
天井からつるした鎖に釜をかけて、炭と釜の距離を離します。
4月:透木釜(すきぎがま)
少しずつ暖かくなってきた時期。
お客様に直接炭の火が当たらないように羽のついた釜を使います。
参考:豆知識
風炉
10月:中置(なかおき)
少しひんやりしてきた時期です。
左端にあった風炉を畳の真ん中まで移動させ、お客様に風炉を少し近づけます。
炉と風炉で使う道具の違い
季節によって炉と風炉と変わることで、茶道具も炉用と風炉用で使う道具が変わります。
炉用 | 風炉用 | |
---|---|---|
釜 ≫ | 炉釜(大振り) 炉用釜・真型釜 サイズ:約直径25.6×高22cm(蓋除く) | 風炉釜(小振り) 真形浜松・風炉用釜 サイズ:約直径21×高16cm(蓋除く) |
炭 ≫ | 炉用の方が、風炉用に比べて長く大きい ↳上段が炉用、下段が風炉用 引用:茶炭倶楽部 株式会社増田屋 | |
炭斗 ≫ | 炉用の方が、風炉用に比べて大きい ↳黒塗り炭斗 左が炉用、右が風炉用 | |
羽箒 ≫ | ↳左側が広い左羽根 炉用 白鳥 | ↳右側が広い右羽根 風炉用 白鳥 |
火箸 ≫ | 柄が桑のほか、松や梅など木でできたもの ↳炉用 桑柄火箸 | 柄がなく鉄や南鐐、銅のもので炉用より短い ↳風炉用 鉄火箸 |
灰器 ≫ | 一般に大振りで釉薬がかかっていないものに湿し灰(しめしばい)を入れる ↳炉用 備前灰器 | 釉薬がかかった小振りなものに藤灰(ふじばい)を入れる ↳風炉用 青楽 灰器 |
灰匙 ≫ | 大振り ↳清五郎作 炉用灰匙 | 小振りで柄が長い ↳清五郎作 風炉用灰匙 |
香合 ≫ | 陶磁器や焼物 ↳今岡三四郎作 兎 | 木地や塗り、蒔絵が施されたもの ↳中村宗悦作 真塗 月に兎蒔絵 |
香 ≫ | 煉香 ↳煉香 鳩居堂梅ヶ香 | 香木 ↳松栄堂 竹印 沈香 |
花入 | 備前や伊賀、信楽 ↳信楽焼花入 | 籠 ↳籠花入 |
柄杓 ≫ | 合が大きく、柄杓の先端は竹の外側、皮にあたる部分が斜めに切られている | 合が小さく、柄杓の柄の先端は竹の内側、身の方が斜めに切られている |
蓋置 | 中節 | 天節 |
参考:茶道具買取、売却の極意-いわの美術株式会社-、CHAKATSU
まとめ
この記事では炉と風炉の違いについて書いてきました。
◆炉と風炉を使い分ける理由は
①季節を感じるため
②お客様への配慮
◆「炉」とは寒い時期に使う小さな囲炉裏のことです。
珠光が初めて炉を切ったと言われています。
◆「風炉」とは中国から伝わったお湯を沸かす道具です。
炉が作られる前は、四季に関係なく風炉を使っていました。
◆炉を使い始める11月は「炉開き」と「口切り」の2つの行事があるため、茶人の正月と言って特別な月とされています。
◆炉と風炉では使う道具も変わってきます。
この記事が少しでも参考になれば幸いです。
コメント
コメント一覧 (3件)
知人より茶室で使う炭を切断してほしいといわれました、すでに丸いまま切断したのや半分に縦に割ったのも
ありました、どのようなサイズで形はどうしたらよいのかサイズごとの数はどのくらい必要なのか、わかれば教えてください。 表千家だそうです、炭自体はそんなに高級品ではなさそうです。
長屋富美寿 様
コメントありがとうございます!
炭についてですが、大変申し訳ないのですが、サイズなどの詳細はわかりかねます…。
ちょっと調べてみましたら、だいぶ前の記事ですが、魚沼市のサイトで茶道で使う炭について詳しく書かれたサイトを見つけました。
https://www.morihikari.jp/2017/08/02/1129/
こちらはそれぞれの炭の必要数についての記事です。
https://www.i-sumi.com/hpgen/HPB/entries/72.html
よろしければご参考ください!
[…] (参考:もなかのぶろぐ) […]